百人一首:歌番号011~020現代語訳・品詞分類など

011:わたの原 八十島かけて 漕ぎ出でぬと 人には告げよ 海人の釣舟

歌番号:011
作 者:参議篁(さんぎ たかむら)
原 文:わたの原 八十島かけて 漕ぎ出でぬと 人には告げよ 海人の釣舟
読み方:わたのはら やそしまかけて こぎいでぬと ひとにはつげよ あまのつりぶね
決まり字:6字
<品詞分類>
わたの原(名) 八十島(名)かけ(動カ下二・連用)て(格助) 漕ぎ出で(動・ダ下二・連用)ぬ(助動・完了・終止)と(格助) 人(名)に(格助)は(係助)告げよ(動・ガ下二・命令) 海人(名)の(格助)釣舟(名)
<現代語訳>
広い海をたくさんの島を目指して舟でこぎだしてしまったと、みんなには伝えておいてください。漁師の釣り舟よ。
<語句語法>
わたの原:広い海
漕ぎ出でぬ:「ぬ」は完了の助動詞。今まさに漕ぎ出したという表現
<表現技法>
☆四句切れ
☆擬人法:「釣舟」を人に見立てて、伝えておくれとお願いしている。

012:天つ風 雲の通ひ路 吹き閉ぢよ をとめの姿 しばしとどめむ

歌番号:012
作 者:僧正遍照(そうじょうへんじょう)
原 文:天つ風 雲の通ひ路 吹き閉ぢよ をとめの姿 しばしとどめむ
読み方:あまつかぜ くものかよひぢ ふきとぢよ をとめのすがた しばしとどめむ
決まり字:3字
<品詞分類>
天(名)つ(格助)風(名) 雲(名)の(格助)通ひ路(名) 吹き閉ぢよ(動・ダ上二・命令) をとめ(名)の(格助)姿(名) しばし(副)とどめ(動・マ下二・未然)む(助動・意志・終止)
<現代語訳>
空吹く風よ、雲の中にあるという(天に通じる)道を(風を)吹かせて(雲をなくして)閉じてくれないか。(天に帰っていく)天女達の姿を、しばらくここに引き留めておきたいから。
<語句語法>
天つ風:「天の風よ」と呼びかける言葉。格助詞「つ」は「の」と同じ働きをする
雲の通ひ路:天上と地上をつなぐ通路。天女はここを通って往来したと言われる。
<表現技法>
☆三句切れ
☆見立て:五節(ごせち)の舞を踊る乙女(をとめ)を天女に見立てている
※五節(ごせち)の舞:毎年11月の新嘗祭に宮中で行われた乙女たちの舞。
公卿・国司の家の未婚の女性が舞姫に選ばれていた。

013:筑波嶺の 峰より落つる 男女川 恋ぞつもりて 淵となりぬる

歌番号:013
作 者:陽成院(ようぜいいん)
原 文:筑波嶺の 峰より落つる 男女川 恋ぞつもりて 淵となりぬる
読み方:つくばねの みねよりおつる みなのがは こひぞつもりて ふちとなりぬる
決まり字:2字
<品詞分類>
筑波嶺(固名)の(格助) 峰(名)より(格助)落つる(動・タ上二・連体) 男女川(固名) 恋(名)ぞ(係助)つもり(動・ラ四・連用)て(接助) 淵(名)と(格助)なり(動・ラ四・連用)ぬる(助動・完了・連体)
<現代語訳>
筑波山の峰から激しく流れてくる男女川には時間をかけて作られた深い淵があるように、私の恋も時間が経つごとに積もりに積もって淵のように深いものになってしまった。
<語句語法>
筑波嶺:常陸国(現茨城県)の筑波山。男体山と女体山の二つの山頂がある。
峰より落つる:同じ歌の中に「嶺」と「峰」を使うことで山の高さを強調している。つまり、男女川が急流であることを示す。
淵:川の流れがよどんで深くなっているところ。川の深い淵に、恋心が積もりに積もって深く溜まっている信条を重ねている。
<表現技法>
☆序詞:第三句まで
☆係り結び:恋『ぞ』つもりて 淵となり『ぬる(連体形)』

014:陸奥の しのぶもぢずり 誰ゆゑに 乱れそめにし われならなくに

歌番号:014
作 者:河原左大臣(かわらのさだいじん)
原 文:陸奥の しのぶもぢずり 誰ゆゑに 乱れそめにし われならなくに
読み方:みちのくの しのぶもぢずり たれゆゑに みだれそめにし われならなくに
決まり字:2字
<品詞分類>
陸奥(固名)の(格助) しのぶもぢずり(名) 誰(代)ゆゑ(名)に(格助) 乱れそめ(動・マ下二・連用)に(助動・完了・連用)し(助動・過去・連体) われ(代)なら(助動・断定・未然)なく(助動・打消・未然(ク語法))に(接助)
<現代語訳>
みちのくの、「しのぶもじずり」の乱れ模様のように、誰のせいで乱れ始めてしまったのか…私のせいではない…あなたのせいなのですよ。
<語句語法>
しのぶもぢずり:現在の福島県信夫(しのぶ)地方で作られていた乱れ模様の摺り衣。
誰ゆゑに:本来ならば「誰ゆゑにか」となる。
乱れそめにし:「し」は「誰ゆゑに」を受けて連体形で結ぶ。
<表現技法>
☆序詞:第二句まで
☆縁語:「乱れ」「染め」が「もぢずり」の縁語となる
☆倒置法
☆四句切れ

015:君がため 春の野に出でて 若菜つむ わが衣手に 雪は降りつつ

歌番号:015
作 者:光孝天皇(こうこうてんのう)
原 文:君がため 春の野に出でて 若菜つむ わが衣手に 雪は降りつつ
読み方:きみがため はるののにいでて わかなつむ わがころもでに ゆきはふりつつ
決まり字:6字
<品詞分類>
君(名)が(格助)ため(名) 春(名)の(格助)野(名)に(格助)出で(動・ダ下二・連用)て(接助) 若菜(名)つむ(動・マ四・連体) わ(代)が(格助)衣手(名)に(格助) 雪(名)は(係助)降り(動・ラ四・連用)つつ(接助)
<現代語訳>
あなたのために、春の野原に出て行って、若菜を積んでいる私の袖に、雪がどんどん降りかかってくるんだよ
<語句語法>
若菜:春に生える食用の草の総称。「若菜の節会」として、1月7日に7種の若菜を食べて長寿を祈る。
君がため:若菜を送った相手。相手の長寿を願うやさしさが表れている
雪は降りつつ:「つつ」は反復継続の接続助詞

016:たち別れ いなばの山の 峰に生ふる まつとし聞かば 今帰り来む

歌番号:016
作 者:中納言行平(ちゅうなごんゆきひら)
原 文:たち別れ いなばの山の 峰に生ふる まつとし聞かば 今帰り来む
読み方:たちわかれ いなばのやまの みねにおふる まつとしきかば いまかへりこむ
決まり字:2字
<品詞分類>
たち別れ(動・ラ下二・連用) いなば(固名)の(格助)山(名)の(格助) 峰(名)に(格助)生ふる(動・ハ上二・連体) まつ(動・タ四・終止)と(格助)し(副助)聞か(動・カ四・未然)ば(接助) 今(副)帰り来(動・カ変・未然)む(助動・意志・終止)
<現代語訳>
あなたと別れて因幡の国へ去ったとしても、因幡山の峰に生えている松ではないが、もし、あなたが待っているのだと聞いたならば、すぐに帰って来よう。
<語句語法>
たち別れ:作者は因幡の国へ地方官として赴任するため、都の人々と別れる。
いなばの山:因幡の国にある、稲葉山のこと。「住なば」と掛けている
まつとし:「し」は強調の副助詞。
聞かば:仮定条件を表している
今:「ただちに」「すぐに」という意味でつかわれる。
帰り来む:赴任のためすぐには帰れないが、「帰る」「来」という似た意味を持つ言葉を使うことで、都を去ることへの耐え難い思いを強調している。また、「む」は意思の助動詞であることからも都への思いがわかる
<表現技法>
☆掛詞:いなば⇒「因幡」「住なば」
☆掛詞:まつ⇒「松」「待つ」

017:ちはやぶる 神代も聞かず 竜田川 からくれなゐに 水くくるとは

歌番号:017
作 者:在原業平朝臣(ありわらのなりひらあそん)
原 文:ちはやぶる 神代も聞かず 竜田川 からくれなゐに 水くくるとは
読み方:ちはやぶる かみよもきかず たつたがは からくれなゐに みづくくるとは
決まり字:2字
<品詞分類>ちはやぶる 神代(名)も(係助)聞か(動・カ四・未然)ず(助動・打消・終止) 竜田川(固名) からくれなゐ(名)に(格助) 水(名)くくる(動・ラ四・終止)と(格助)は(係助)
<現代語訳>
不思議なことが数多く起こるという神々の時代でも聞いたことがない。竜田川が唐紅色に水をくくり染めしていることは。
<語句語法>
ちはやぶる:「神」にかかる枕詞
神代:古の神々の時代
竜田川:奈良県の竜田山近辺に流れる川
からくれなゐ:鮮やかな赤色。唐(から)の国から伝わってきたことから呼ばれる
くくる:くくり染め。絞り染め。布を縛ったり絞ったりしながら染めることで、染まらない箇所をつくる染め方
<表現技法>
☆二句切れ
☆枕詞:ちはやぶる⇒神
☆擬人法:「竜田川」が「みずくくる(くくり染めをする)」
☆倒置法

018:住の江の 岸による波 よるさへや 夢の通ひ路 人めよくらむ

歌番号:018
作 者:藤原敏行朝臣(ふじわらのとしゆきあそん)
原 文:住の江の 岸による波 よるさへや 夢の通ひ路 人めよくらむ
読み方:すみのえの きしによるなみ よるさへや ゆめのかよひぢ ひとめよくらむ
決まり字:1字
<品詞分類>
住の江(固名)の(格助) 岸(名)に(格助)よる(動・ラ四・連体)波(名) よる(名)さへ(副助)や(係助) 夢(名)の(格助)通ひ路(名) 人め(名)よく(動・カ下二・終止)らむ(助動・推量・連体)
<現代語訳>
住の江の岸に寄る波の「よる」ではないが、夜でも夢の通い路を通っても会えないのは、あなたが夢の中でも人目を避けているからであろうか
<語句語法>
住の江:大阪市住吉区の一部の海岸
よる:同音反復により、繰り返し寄せる波と夢にすら出てこない相手への心の揺れを表す。
夢の通ひ路:「通ひ路」は、男が女のもとに通う道のこと。夢なので人目を避ける必要もないのにという気持ちが表れている
よく:「避ける」の意味
<表現技法>
☆序詞:第二句まで
☆係り結び:よるさへ『や』 夢の通ひ路 人めよく『らむ(連体形)』

019:難波潟 みじかき芦の ふしの間も 逢はでこの世を 過ぐしてよとや

歌番号:019
作 者:伊勢(いせ)
原 文:難波潟 みじかき芦の ふしの間も 逢はでこの世を 過ぐしてよとや
読み方:なにはがた みじかきあしの ふしのまも あはでこのよを すぐしてよとや
決まり字:4字
<品詞分類>
難波潟(固名) みじかき(形・ク・連体)芦(名)の(格助) ふし(名)の(格助)間(名)も(係助) 逢は(動・ハ四・未然)で(接助)こ(代)の(格助)世(名)を(格助) 過ぐし((動・サ四・連用)てよ(助動・完了・命令)と(格助)や(係助)
<現代語訳>
難波潟の岸辺に生える芦の、その短い節の間のように、ほんのわずかの間も逢わないまま私に死ねとあなたは言うのでしょうか?
<語句語法>
難波潟:大阪市近辺の大阪湾の一部。低湿地帯となっており、芦が群生していた
世:男女の仲から人生にまで意味を広げている
<表現技法>
☆序詞:第二句まで
☆掛詞:「ふしの間も」二重の文脈を作っている
☆縁語:「世」「節(よ)」「節(ふし)」「芦(あし)」
☆係り結び:過ぐしてよと『や』(結びは省略されている)

020:わびぬれば 今はた同じ 難波なる みをつくしても 逢はむとぞ思ふ

歌番号:020
作 者:元良親王(もとよししんのう)
原 文:わびぬれば 今はた同じ 難波なる みをつくしても 逢はむとぞ思ふ
読み方:わびぬれば いまはたおなじ なにはなる みをつくしても あはむとぞおもふ
決まり字:2字
<品詞分類>
わび(動・バ上二・連用)ぬれ(助動・完了・已然)ば(接助) 今(名)はた(副)同じ(形・シク・終止) 難波(固名)なる(助動・存在・連体) み(名)を(格助)つくし(動・サ四・連用)て(接助)も(係助) 逢は(動・ハ四・未然)む(助動・意志・終止)と(格助)ぞ(係助)思ふ(動・ハ四・連体)
<現代語訳>
行き詰って苦しいので、今となってはもう同じこと。難波にある澪標ではないが、身を尽くしてでも逢いたいと思う。
<語句語法>
わび:「わぶ」の連用形。物事が行き詰って苦しく思う気持ち
今:京極御息所との不義の恋の噂が世に漏れてしまった『今』となっては、という意味
※京極御息所:宇多天皇の女御(女御)
みおつくし:「澪標」は船の航行の目印となる杭。「身を尽くす」は、身を破滅させるという意味
<表現技法>
☆二句切れ
☆掛詞:「澪標(みおつくし)」「身を尽くし」
☆係り結び:あはむと『ぞ』『思ふ(連体形)』

スポンサーリンク


 

スポンサーリンク




シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする