百人一首:歌番号041~050現代語訳・品詞分類など

041:恋すてふ わが名はまだき 立ちにけり 人知れずこそ 思ひそめしか

歌番号:041
作 者:壬生忠見(みのぶただみ)
原 文:恋すてふ わが名はまだき 立ちにけり 人知れずこそ 思ひそめしか
読み方:こひすてふ わがなはまだき たちにけり ひとしれずこそ おもひそめしか
決まり字:2字
<品詞分類>
恋す(動・サ変・終止)てふ(連語) わ(代)が(各助)名(名)は(係助)まだき(副) 立ち(動・タ四・連用)に(助動・完了・連用)けり(助動・詠嘆・終止) 人(名)知れ(動・ラ下二・未然)ず(助動・打消・連用)こそ(係助) 思ひそめ(動・マ下二・連用)しか(助動・過去・已然)
<現代語訳>
私が恋をしているという噂が早くもたってしまったのだった。誰にも知られないようにひそかに思いはじめたばかりなのに
<語句語法>
恋すてふ:「てふ」は「という」が縮まった形
わが名:「名」は世間の噂や評判を指す
<表現技法>
☆三句切れ
☆倒置法

042:契りきな かたみに袖を しぼりつつ 末の松山 波越さじとは

歌番号:042
作 者:清原元輔(きよはらのもとすけ)
原 文:契りきな かたみに袖を しぼりつつ 末の松山 波越さじとは
読み方:ちぎりきな かたみにそでを しぼりつつ すゑのまつやま なみこさじとは
決まり字:4字
<品詞分類>
契り(動・ラ四・連用)き(助動・過去・終止)な(終助) かたみに(副)袖(名)を(格助) しぼり(動・ラ四・連用)つつ(接助) 末の松山(固名) 波(名)越さ(動・サ四・未然)じ(助動・打消推量・終止)と(格助)は(係助)
<現代語訳>
約束をしたよね。互いに涙にぬらした袖をしぼっては、波が末の松山を越さないように二人の心が変わらないということを
<語句語法>
契りきな:「契る」は約束を交わすという意味。語呂から「契りなき」と覚えてしまっている人も多いので注意すること
袖をしぼりつつ:『つつ』は反復・継続の接続助詞。「…しながら」と訳してはいけない
末の松山:宮城県多賀城市の地名。どんなに大きな波でも末の松山を越えることはないと言われていた。事実、東日本大震災の津波も末の松山まで届いていない。
<表現技法>
☆初句切れ
☆倒置法

043:逢ひ見ての のちの心に くらぶれば 昔は物を 思はざりけり

歌番号:043
作 者:権中納言敦忠(ごんちゅうなごんあつただ)
原 文:逢ひ見ての のちの心に くらぶれば 昔は物を 思はざりけり
読み方:あひみての のちのこころに くらぶれば むかしはものを おもはざりけり
決まり字:2字
<品詞分類>
逢ひ見(動・マ上一・連用)て(接所)の(格助) のち(名)の(格助)心(名)に(格助) くらぶれ(動・バ下二・已然)ば(接助) 昔(名)は(係助)物(名)を(格助) 思は(動・ハ四・未然)ざり(助動・打消・連用)けり(助動・詠嘆・終止)
<現代語訳>
ついにあなたと一夜を過ごしたのだが、逢った後の苦しい気持ちに比べると、以前の恋心の苦しい気持ちなどは、何とも思っていなかったのと同じようなものです。
<語句語法>
逢い見ての:「逢う」「見る」は男女の関係を表すときに用いられる
のちの心:一夜を過ごした後の今の心を表す
思わざりけり:「けり」は初めて気が付いた感動を表す。ここでは、「以前の苦しい恋心など、今の苦しい恋心に比べたら何とも思っていないに等しい」と気が付いたことを表す

044:逢ふことの 絶えてしなくは なかなかに 人をも身をも 恨みざらまし

歌番号:044
作 者:中納言朝忠(ちゅうなごんあさただ)
原 文:逢ふことの 絶えてしなくは なかなかに 人をも身をも 恨みざらまし
読み方:あふことの たえてしなくは なかなかに ひとをもみをも うらみざらまし
決まり字:3字
<品詞分類>
逢ふ(動・ハ四・連体)こと(名)の(格助) 絶えて(副)し(間助)なく(形・ク・連用)は(係助) なかなかに(副) 人(名)を(格助)も(係助)身(名)を(格助)も(係助) 恨み(動・マ上二・未然)ざら(助動・打消・未然)まし(助動・反実仮想・終止)
<現代語訳>
あなたと逢うことが絶対にないのであれば、むしろあなたのつれなさも、私のつたない運命も恨むことはしないのに
<語句語法>
逢ふことの:「逢う」は男女の関係や逢瀬をさす
絶えて:打消しの語を伴って強い否定を表す副詞。
…なくは~まし:反実仮想の構文を表現している
なかなかに:「むしろ~」「かえって~」という現状とは反対のほうがよいという表現となる

045:あはれとも いふべき人は 思ほえで 身のいたづらに なりぬべきかな

歌番号:045
作 者:謙徳公(けんとくこう)
原 文:あはれとも いふべき人は 思ほえで 身のいたづらに なりぬべきかな
読み方:あはれとも いふべき人は 思ほえで 身のいたづらに なりぬべきかな
決まり字:3字
<品詞分類>
あはれ(感)と(名)も(係助) いふ(動・ハ四・終止)べき(助動・当然・連体)人(名)は(係助) 思ほえ(動・ヤ下二・未然)で(接助) 身(名)の(格助)いたづらに(形動・ナリ・連用) なり(動・ラ四・連用)ぬ(助動・強意・終止)べき(助動・推量・連体)かな(終助)
<現代語訳>
私のことをかわいそうだと同情してくれる人も思い浮かばず、きっと私はむなしく死んでいくに違いないのでしょうね
<語句語法>
あはれ:ここでは「感動詞」となる。
思ほえで:「思ほえ」は「思われる」「思い浮かぶ」という意味
身のいたづらに:「身」は自分自身、「いたづら」は「無駄」「はかない」の意味。これらを併せて、「自分の身を無駄にする⇒自身の死」と解釈できる。

046:由良のとを 渡る舟人 かぢを絶え ゆくへも知らぬ 恋の道かな

歌番号:046
作 者:曾禰好忠(そねのよしただ)
原 文:由良のとを 渡る舟人 かぢを絶え ゆくへも知らぬ 恋の道かな
読み方:ゆらのとを わたるふなびと かぢをたえ ゆくへもしらぬ こひのみちかな
決まり字:2字
<品詞分類>
由良(固名)の(格助)と(名)を(格助) 渡る(動・ラ四・連体)舟人(名) かぢ(名)を(間助)絶え(動・ヤ下二・連用) 行くへ(名)も(係助)知ら(動・ラ四・未然)ぬ(助動・打消・連体) 恋(名)の(格助)道(名)かな(終助)
<現代語訳>
由良の海峡を渡っていく舟人が、かじがなくなってどこへ行くかもわからず漂うように、私の恋もこれからの行く末がわからないなぁ
<語句語法>
由良のと:「由良」は京都府北部の「由良川」、「と」は「水門(みなと)」の意味で、瀬戸や海峡を表す。「由良のと」で「由良川河口近辺」であることがわかる
かぢ:船を操縦する道具の総称。現代で言う「舵」だけを表すものではない
<表現技法>
☆序詞:第三句まで
☆縁語:「と」「渡る」「舟人」「かぢ」「行くへ」「道」

047:八重葎 しげれる宿の さびしきに 人こそ見えね 秋は来にけり

歌番号:047
作 者:恵慶法師(えぎょうほうし)
原 文:八重葎 しげれる宿の さびしきに 人こそ見えね 秋は来にけり
読み方:やへむぐら しげれるやどの さびしきに ひとこそみえね あきはきにけり
決まり字:2字
<品詞分類>
八重葎(名) しげれ(動・ラ四・命令)る(助動・存続・連体)宿(名)の(格助) さびしき(形・シク・連体)に(格助) 人(名)こそ(係助)見え(動・ヤ下二・未然)ね(助動・打消・已然) 秋(名)は(係助)来(動・カ変・連用)に(助動・完了・連用)けり(助動・詠嘆・終止)
<現代語訳>
幾重にもつる草の生い茂っている家は荒れていて、このような寂しいところに訪ねてくる者はいないけれど、秋は来ていたのだったよ
<語句語法>
八重:幾重にも折り重なっている様子
葎:つる性の草の総称。『八重葎』は家の荒廃ぶりを象徴する言葉。
人こそ見えね:「ね」は打消しの助動詞「ず」の已然形。係り結び「こそ」が来る場合、結びは已然形となる。「こそ…已然形」で下に続くときは逆説の文脈となる。
秋は来にけり:「けり」は初めて気が付いた感動を表す。ここでは、周囲の気配から秋が来ていたことに今気が付いたという感動を表している。
<表現技法>
☆係り結び:人『こそ』見え『ね(已然形)』

048:風をいたみ 岩うつ波の おのれのみ くだけて物を 思ふころかな

歌番号:048
作 者:源重之(みなもとのしげゆき)
原 文:風をいたみ 岩うつ波の おのれのみ くだけて物を 思ふころかな
読み方:かぜをいたみ いはうつなみの おのれのみ くだけてものを おもふころかな
決まり字:3字
<品詞分類>
風(名)を(間助)いた(形(語幹))み(接尾) 岩(名)うつ(動・タ四・連体)波(名)の(格助) おのれ(代)のみ(副助) くだけ(動・カ下二・連用)て(接助)物(名)を(格助) 思ふ(動・ハ四・連体)ころ(名)かな(終助)
<現代語訳>
風が激しいので、岩に打ち付ける波がひとりでに砕け散るように、私の心だけが砕け散るばかりに思い悩むこの頃です。
<語句語法>
風をいたみ:「…を~み」は原因・理由を表す語法。「~」の部分には形容詞の語幹が入る。
岩うつ波の:岩の強固さを、相手の冷淡な態度になぞらえている
おのれのみくだけて:岩に打ち付ける波がひとりでに砕け散るさまを、自分の心だけが砕けることになぞらえている。相手の心は砕けない(冷淡)なのだという様子を表している
<表現技法>
☆序詞:第二句まで

049:みかきもり 衛士のたく火の 夜は燃え 昼は消えつつ ものをこそ思へ

歌番号:049
作 者:大中臣能宣(おおなかとみのよしのぶ)
原 文:みかきもり 衛士のたく火の 夜は燃え 昼は消えつつ ものをこそ思へ
読み方:みかきもり ゑじのたくひの よるはもえ ひるはきえつつ ものをこそおもへ
決まり字:3字
<品詞分類>
みかきもり(名) 衛士(名)の(格助)たく(動・カ四・連体)火(名)の(格助) 夜(名)は(係助)燃え(動・ヤ下二・連用) 昼(名)は(係助)消え(動・ヤ下二・連用)つつ(接助) 物(名)を(格助)こそ(係助)思へ(動・ハ四・已然)
<現代語訳>
御垣守(みかきもり)である衛士(えじ)の焚く火が、夜は燃えては昼は消えるように、私の心は夜は恋の情熱に燃え、昼間は消え入るように沈み込むことを繰り返すばかりで、思い悩むほかないのである。
<語句語法>
御垣守:「みかきもり」と読む。宮中の門を警備する兵士のこと
衛士:全国から交代で集められた兵士。門の警護(御垣守)が職務の一つとしてある
みかきもり 衛士:「御垣守である衛士」という意味。別々の人間ではない
夜は燃え昼は消えつつ:『つつ』は反復・継続の接続助詞。「夜は燃え、昼は消える」を繰り返していることを表す。「~しながら」ではない。
ものをこそ思へ:「もの思ふ」で「恋の物思いをする」という意味になる。
<表現技法>
☆係り結び:物を『こそ』『思へ(已然形)』
☆序詞:第二句まで

050:君がため 惜しからざりし 命さへ 長くもがなと 思ひけるかな

歌番号:050
作 者:藤原義孝(ふじわらのよしたか)
原 文:君がため 惜しからざりし 命さへ 長くもがなと 思ひけるかな
読み方:きみがため をしからざりし いのちさへ ながくもがなと おもひけるかな
決まり字:6字
<品詞分類>
君(代)が(格助)ため(名) 惜しから(形・シク・未然)ざり(助動・打消・連用)し(助動・過去・連体) 命(名)さへ(副助) 長く(形・ク・連用)もがな(終助)と(格助) 思ひ(動・ハ四・連用)ける(助動・詠嘆・連体)かな(終助)
<現代語訳>
あなたに逢うためならたとえ失っても惜しくはないと思っていた私の命ですが、あなたと逢った今となっては、長くありたいと思うようになったのです。
<語句語法>
君がため:「あなたと逢うために」という意味
命さへ:「さへ」は添加の副助詞。現代語の「~さえも」の意味で捉えてよい
長くもがな:「もがな」は願望の終助詞。「長くありたい」となり、長生きしたいという意味になる。なお、作者は21歳の若さで亡くなっている。

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