百人一首:歌番号071~080現代語訳・品詞分類など

071:夕されば 門田の稲葉 おとづれて 芦のまろやに 秋風ぞ吹く

歌番号:071
作 者:大納言経信(だいなごんつねのぶ)
原 文:夕されば 門田の稲葉 おとづれて 芦のまろやに 秋風ぞ吹く
読み方:ゆふされば かどたのいなば おとづれて あしのまろやに あきかぜぞふく
決まり字:2字
<品詞分類>
夕(名)され(動・ラ四・已然)ば(接助) 門田(名)の(格助)稲葉(名) おとづれ(動・ラ下二・連用)て(接助) 芦(名)の(格助)まろや(名)に(格助) 秋風(名)ぞ(係助)吹く(動・カ四・連体)
<現代語訳>
夕方になると、門の前にある田の稲葉を音を立てて、秋風が芦ぶきの山荘に吹きわたってくることだ。
<語句語法>
夕されば:「さる」は「移動する・移り変わる」の意味。「去る」の意味と間違えないこと。
門田:家の前にある田んぼ
芦のまろや:芦ぶきの粗末な仮小屋のこと。ここでは作者の血縁「源師賢(みなもとのもろかた)」の山荘のこと
<表現技法>
☆係り結び:秋風『ぞ』『吹く』

072:音に聞く 高師の浜の あだ波は かけじや袖の ぬれもこそすれ

歌番号:072
作 者:祐子内親王家紀伊(ゆうしないしんのうけのきい)
原 文:音に聞く 高師の浜の あだ波は かけじや袖の ぬれもこそすれ
読み方:おとにきく たかしのはまの あだなみは かけじやそでの ぬれもこそすれ
決まり字:2字
<品詞分類>
音(名)に(格助)聞く(動・カ四・連体) 高師の浜(固名)の(格助) あだ波(名)は(係助) かけ(動・カ下二・未然)じ(助動・打消意志・終止)や(間助)袖(名)の(格助) ぬれ(動・ラ下二・連用)も(係助)こそ(係助)すれ(動・サ変・已然)
<現代語訳>
噂に名高い高師の浜のきまぐれな波は服にかけません。袖が波でぬれるといけませんから。
(噂に名高い浮気者のあなたの言葉は心にかけません。袖が涙でぬれるといけませんから。)
<語句語法>
音に聞く:うわさに聞く
高師の浜:大阪府堺市から高石市一帯の海岸。「高師」と「高い(波が)」の掛詞となっている
あだ波:いたずらに気まぐれに立つ波。男の浮気心を暗示している
ぬれもこそすれ:濡れるのは「波で袖がぬれる」「涙で袖がぬれる」の二つの意味を持つ
<表現技法>
☆係り結び:ぬれも『こそ』『すれ』

073:高砂の 尾の上の桜 咲きにけり 外山の霞 立たずもあらなむ

歌番号:073
作 者:権中納言匡房(ごんちゅうなごんまさふさ)
原 文:高砂の 尾の上の桜 咲きにけり 外山の霞 立たずもあらなむ
読み方:たかさごの をのへのさくら さきにけり とやまのかすみ たたずもあらなむ
決まり字:2字
<品詞分類>
高砂(名)の(格助) 尾の上(名)の(格助)桜(名) 咲き(動・カ四・連用)に(助動・完了・連用)けり(助動・詠嘆・終止) 外山(名)の(格助)霞(名) 立た(動・タ四・未然)ず(助動・打消・連用)も(係助)あら(動・ラ変・未然)なむ(終助)
<現代語訳>
遠くの山の峰の桜が咲いた。手前の山の霞よ、どうか立たないでいてほしい。
<語句語法>
高砂:そもそもの意味は「高く砂が積もっている」。ここでは地名ではなく山を指す。
尾の上:「尾」は山の峰の意味
外山:人里に近い所にある低い山。高砂と表現されている山はその奥にあることがわかる
<表現技法>
☆三句切れ

074:憂かりける 人を初瀬の 山おろしよ はげしかれとは 祈らぬものを

歌番号:074
作 者:源俊頼朝臣(みなもとのとしよりあそん)
原 文:憂かりける 人を初瀬の 山おろしよ はげしかれとは 祈らぬものを
読み方:うかりける ひとをはつせの やまおろしよ はげしかれとは いのらぬものを
決まり字:2字
<品詞分類>
憂かり(形・ク・連用)ける(助動・過去・連体) 人(名)を(格助)初瀬(固名)の(格助) 山おろし(名)よ(間助) はげしかれ(形・シク・命令)と(格助)は(係助) 祈ら(動・ラ四・未然)ぬ(助動・打消・連体)ものを(接助)
<現代語訳>
私がつらく思ったあの人の心を変えて私になびくようにと、初瀬の観音様にお祈りこそしたのだが、初瀬の山おろしよ、ひどくなれとはいのってはいないぞ。
<語句語法>
憂かりける人:つれない態度をとられて私がつらく思う相手のこと
初瀬:奈良県にある地名。観音信仰の霊場として知られている
はげしかれ:「はげし」の命令形。思い人の態度を暗示している
<表現技法>
☆擬人法:「山おろし」に「呼びかけ」ている

075:契りおきし させもが露を 命にて あはれ今年の 秋もいぬめり

歌番号:075
作 者:藤原基俊(ふじわらのもととし)
原 文:契りおきし させもが露を 命にて あはれ今年の 秋もいぬめり
読み方:ちぎりおきし させもがつゆを いのちにて あはれことしの あきもいぬめり
決まり字:4字
<背景>
作者の子供が興福寺の講師になることを、作者はその任命者である藤原忠道にお願いしていた。忠道は清水観音の歌を引用して暗に「わかった」と伝えていた。これが「恵みの露」にたとえられている言葉。
<品詞分類>
契りおき(動・カ四・連用)し(助動・過去・連体) させも(名)が(格助)露(名)を(格助) 命(名)に(助動・断定・連用)て(接助) あはれ(感)今年(名)の(格助) 秋(名)も(係助)いぬ(動・ナ変・終止)めり(助動・推量・終止)
<現代語訳>
あなたが約束してくださいました恵みの露のようなお言葉を命とも頼んできましたが、今年の秋もむなしく過ぎていくようです。
<語句語法>
契おきし:約束しておいた(上記短歌の背景を参照)
させも:さしも草・よもぎ草

076:わたの原 漕ぎ出でて見れば ひさかたの 雲居にまがふ 沖つ白波

歌番号:076
作 者:法性寺入道前関白太政大臣(ほっしょうじにゅうどうさきのかんぱくだじょうだいじん)
原 文:わたの原 漕ぎ出でて見れば ひさかたの 雲居にまがふ 沖つ白波
読み方:わたのはら こぎいでてみれば ひさかたの くもゐにまがふ おきつしらなみ
決まり字:6字
<品詞分類>
わたの原(名) 漕ぎ出で(動・ダ下二・連用)て(接助)見れ(動・マ上一・已然)ば(接助) ひさかたの 雲居(名)に(格助)まがふ(動・ハ四・連体) 沖(名)つ(格助)白波(名)
<現代語訳>
大海原に船を漕ぎだしてあたりを眺め渡すと、雲とまじりあって見分けがつかかうなるくらいに沖に白波が立っている。
<語句語法>
わたの原:「わた」は海。「原」は広い場所ということから、大海原という意味になる
漕ぎ出でて見れば:「見れば」は「見る」の已然形。接続助詞「ば」がつくことで確定条件を表す
雲居:雲の居るところから空のことを指す。この句では雲そのものを指している。
沖つ白波:「~の」という意味。上代でつかわれていた言葉。
<表現技法>
☆枕詞:『ひさかたの』『雲居』にまがふ
☆体言止め

077:瀬をはやみ 岩にせかるる 滝川の われても末に あはむとぞ思ふ

歌番号:077
作 者:崇徳院(すとくいん)
原 文:瀬をはやみ 岩にせかるる 滝川の われても末に あはむとぞ思ふ
読み方:せをはやみ いはにせかるる たきがはの われてもすゑに あはむとぞおもふ
決まり字:1字
<品詞分類>
瀬(名)を(間助)はや(形(語幹))み(接尾) 岩(名)に(格助)せか(動・カ四・未然)るる(助動・受身・連体) 滝川(名)の(格助) われ(動・ラ下二・連用)て(接助)も(係助)末(名)に(格助) あは(動・ハ四・未然)む(助動・意志・終止)と(格助)ぞ(係助)思ふ(動・ハ四・連体)
<現代語訳>
川の流れが早いので、岩にせき止められた急流が、二つに分かれてもまた一つになるように、今はあなたと別れ別れになっているが、いつかきっと逢えることと思います。
<語句語法>
瀬をはやみ:「…を+形容詞語幹+み」で「…が、(形容詞)なので」という原因・理由を表す表現となる
滝川:流れが急な川を指す言葉。
われても:岩が水の流れを「わる」意味と、男女が「わる(別れる)」意味を持たせている。「ても」は逆説の仮定条件。

078:淡路島 かよふ千鳥の 鳴く声に いく夜寝覚めぬ 須磨の関守

歌番号:078
作 者:源兼昌(みなもとのかねまさ)
原 文:淡路島 かよふ千鳥の 鳴く声に いく夜寝覚めぬ 須磨の関守
読み方:あはぢしま かよふちどりの なくこゑに いくよねざめぬ すまのせきもり
決まり字:3字
<品詞分類>
淡路島(固名) かよふ(動・ハ四・連体)千鳥(名)の(格助) 鳴く(動・カ四・連体)声(名)に(格助) いく夜(名)寝覚め(動・マ下二・連用)ぬ(助動・完了・終止) 須磨(固名)の(格助)関守(名)
<現代語訳>
淡路島から通ってくる千鳥のなく声で、幾夜目を覚ましたことであろうか、須磨の関守は。
<語句語法>
淡路島:兵庫県の南に浮かぶ日本一大きな島。
千鳥:水辺で生息し、群れをなして飛ぶ小型の野鳥
いく夜寝覚めぬ:疑問詞の「いく夜」を含んでいるので、本来ならば「ぬる」となるところを語調の関係で「ぬ」としている
須磨:兵庫県神戸市須磨区。須磨水族館はおすすめ。
<表現技法>
☆四句切れ
☆倒置法:第四句と第五句

079:秋風に たなびく雲の 絶え間より もれ出づる月の 影のさやけさ

歌番号:079
作 者:左京大夫顕輔(さきょうのだいぶあきすけ)
原 文:秋風に たなびく雲の 絶え間より もれ出づる月の 影のさやけさ
読み方:あきかぜに たなびくくもの たえまより もれいづるつきの かげのさやけさ
決まり字:3字
<品詞分類>
秋風(名)に(格助) たなびく(動・カ四・連体)雲(名)の(格助) 絶え間(名)より(格助) もれ出づる(動・ダ下二・連体)月(名)の(格助) 影(名)の(格助)さやけさ(名)
<現代語訳>
秋風に吹かれてなびいている雲の切れ間から、漏れ出てくる月の光の、なんともくっきりと澄み切っていることよ。
<語句語法>
秋風に:「に」は原因理由を表す格助詞。
たなびく:細く横に長くある表現
月の影:「影」は形を表すことから、この場合「月の光」となる。
さやけさ:形容詞「さやけし」が名詞化したもの。つまり体言止めとなる。
<表現技法>
☆体言止め

080:長からむ 心も知らず 黒髪の 乱れて今朝は 物をこそ思へ

歌番号:080
作 者:待賢門院堀河(たいけんもんいんのほりかわ)
原 文:長からむ 心も知らず 黒髪の 乱れて今朝は 物をこそ思へ
読み方:ながからむ こころもしらず くろかみの みだれてけさは ものをこそおもへ
決まり字:3字
<品詞分類>

長から(形・ク・未然)む(助動・婉曲・連体) 心(名)も(係助)知ら(動・ラ四・未然)ず(助動・打消・連用) 黒髪(名)の(格助) 乱れ(動・ラ下二・連用)て(接助)今朝(名)は(係助) 物(名)を(格助)こそ(係助)思へ(動・ハ四・已然)

<現代語訳>

あなたの心は末永くまで決して変わらないかどうか、わたしの黒髪が乱れているように、わたしの心も乱れて、今朝は物思いに沈んでおります。

<語句語法>
長からむ:助動詞「む」は婉曲の意味を持つ
心も知らず:助動詞「ず」は打消しの連用形としたが、終止形とする説もある
乱れて:上から「黒髪の乱れて」下へ「乱れて今朝は~」という二重の文脈をとる
今朝は:男女が夜を共にした「後朝(あとぎぬ)」の歌ということがわかる
<表現技法>
☆縁語「長し」「乱れて」はそれぞれ「黒髪」の縁語
☆係り結び:ものを『こそ』『思へ』

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