百人一首:歌番号021~030現代語訳・品詞分類など

021:今来むと 言ひしばかりに 長月の 有明の月を 待ち出でつるかな

歌番号:021
作 者:素性法師(そせいほうし)
原 文:今来むと 言ひしばかりに 長月の 有明の月を 待ち出でつるかな
読み方:いまこむと いひしばかりに ながつきの ありあけのつきを まちいでつるかな
決まり字:3字
<品詞分類>
今(副)来(動・カ変・未然)む(助動・意志・終止)と(格助) 言ひ(動・ハ四・連用)し(助動・過去・連体)ばかり(副助)に(格助) 長月(名)の(格助) 有明(名)の(格助)月(名)を(格助) 待ち出で(動・ダ下二・連用)つる(助動・完了・連体)かな(終助)
<現代語訳>
今すぐに来ようと言ってきたばかりに、九月夜長を待ちづつけていたら有明の月が出てきてしまった。
<語句語法>
今:今すぐにという意味
来む:作者(女性の立場)からの言い方となる。
長月:陰暦の九月。夜が長い時期。
有明の月:陰暦で十六日以降に見られる、明け方になっても空に残っている月
<表現技法>
☆素性法師は男だが、女の立場に立って詠んだ歌である

022:吹くからに 秋の草木の しをるれば むべ山風を 嵐といふらむ

歌番号:022
作 者:文屋康秀(ふんやのやすひで)
原 文:吹くからに 秋の草木の しをるれば むべ山風を 嵐といふらむ
読み方:ふくからに あきのくさきの しをるれば むべやまかぜを あらしといふらむ
決まり字:1字
<品詞分類>
吹く(動・カ四・連体)からに(接助) 秋(名)の(格助)草木(名)の(格助) しをるれ(動・ラ下二・已然)ば(接助) むべ(副)山風(名)を(格助) 嵐(名)と(格助)いふ(動・ハ四・終止)らむ(助動・推量・終止)
<現代語訳>
吹くとすぐに秋の草木がしおれるので、なるほど山風を嵐というのだろう
<語句語法>
吹くからに:「からに」は「…するとすぐに」という意味
むべ:「なるほど」という意味。上の句を受けて原因理由を察し、「なるほど」と納得する気持ちを表す
…山風を嵐と…:「嵐」と「荒らし」の掛詞。また、「山」「風」を合わせると「嵐」となる言葉遊びも含まれている。
<表現技法>
☆掛詞:「嵐」「荒らし」

023:月見れば ちぢにものこそ 悲しけれ わが身一つの 秋にはあらねど

歌番号:023
作 者:大江千里(おおえのちさと)
原 文:月見れば ちぢにものこそ 悲しけれ わが身一つの 秋にはあらねど
読み方:つきみれば ちぢにものこそ かなしけれ わがみひとつの あきにはあらねど
決まり字:2字
<品詞分類>
月(名)見れ(動・マ上一・已然)ば(接助) ちぢに(形動・ナリ・連用)もの(名)こそ(係助) 悲しけれ(形・シク・已然) わ(代)が(格助)身(名)一つ(名)の(格助) 秋(名)に(助動・断定・連用)は(係助)あら(補動・ラ変・未然)ね(助動・打消・已然)ど(接助)
<現代語訳>
月を見るとこの世の様々な物事が悲しく思われる…。私一人の秋ではないのだけれど。
<語句語法>
みれば:確定条件を表す
ちぢに:感じで表すと「千々に」。「いろいろな」「様々な」「際限なく」という意味
もの:自分を取り巻く様々なこの世の物事を表す
<表現技法>
☆三句切れ
☆倒置法(上の句と下の句)

024:このたびは ぬさもとりあへず 手向山 紅葉の錦 神のまにまに

歌番号:024
作 者:菅家(かんけ)
原 文:このたびは ぬさもとりあへず 手向山 紅葉の錦 神のまにまに
読み方:このたびは ぬさもとりあへず たむけやま もみぢのにしき かみのまにまに
決まり字:2字
<品詞分類>
こ(代)の(格助)たび(名)は(係助) ぬさ(名)も(係助)とりあへ(動・ハ下二・未然)ず(助動・打消・終止) 手向山(名) 紅葉(名)の(格助)錦(名) 神(名)の(格助)まにまに(副)
<現代語訳>
この度の旅では、幣を捧げることもできません。手向山の紅葉の錦を捧げるので、神の思うままにお受け取りください。
<語句語法>
とりあへず:「とるあふ」+「ず」に分ける。現代語の「とりあえず」ではない。
とる:神様などに捧げるという意味
ず:打消の助動詞
手向山:神様に手向け(捧げもの)をする山のこと。
まにまに:思うままに
<表現技法>
☆二句切れ

025:名にしおはば 逢坂山の さねかづら 人にしられで くるよしもがな

歌番号:025
作 者:三条右大臣(さんじょうのうだいじん)
原 文:名にしおはば 逢坂山の さねかづら 人にしられで くるよしもがな
読み方:なにしおはば あふさかやまの さねかづら ひとにしられで くるよしもがな
決まり字:3字
<品詞分類>
名(名)に(格助)し(副助)おは(動・ハ四・未然)ば(接助) 逢坂山(固名)の(格助) さねかづら(名) 人(名)に(格助)しら(動・ラ四・未然)れ(助動・受身・未然)で(接助) くる(動・カ変・連体)よし(名)もがな(終助)
<現代語訳>
「逢う」の名を持つ逢坂山、「共寝(さね)」の名を持つさねかずら、その逢坂山のさねかずらが手繰ればこちらに来るように、誰にも知られずにあなたを連れ出す方法が欲しいですよ。
<語句語法>
名にしおはば:名前を持っているのならばという仮定条件
逢坂山:山城国(京都)と近江国(滋賀)の境にある山。逢坂の関がある。「逢う」と掛詞でよく使われる。
さねかづら:つる草の一種。「共寝(さね)」との掛詞。「逢う」とは縁語
もがな:願望の終助詞
<表現技法>
☆掛詞:「逢坂山」「逢う」
☆掛詞:「さねかづら」「共寝(さね)」
☆掛詞:「くる(来る)」「繰る(手繰る)」
☆縁語:「さねかづら」「くる」

026:小倉山 峰のもみぢ葉 心あらば 今ひとたびの みゆき待たなむ

歌番号:026
作 者:貞信公(ていしんこう)
原 文:小倉山 峰のもみぢ葉 心あらば 今ひとたびの みゆき待たなむ
読み方:をぐらやま みねのもみぢば こころあらば いまひとたびの みゆきまたなむ
決まり字:2字
<品詞分類>
小倉山(固名) 峰(名)の(格助)もみぢ葉(名) 心(名)あら(動・ラ変・未然)ば(接助) 今(副)ひとたび(名)の(格助) みゆき(名)待た(動・タ四・未然)なむ(終助)
<現代語訳>
小倉山の峰の紅葉よ、もしもお前に人の心があるならば、せめてもう一度の行幸があるまで散らずに待っていてはくれないか。
<語句語法>
小倉山:京都の嵐山の向かいにある山。紅葉の名所として有名。
心:ここでは人の心を指す。
今ひとたびの:「せめてもう一度」という切望
みゆき:「行幸」と書けば天皇が来ること、「御幸」と書けば上皇が来ることになる
<表現技法>
☆擬人法:「紅葉」が「待つ」

027:みかの原 わきて流るる 泉川 いつ見きとてか 恋しかるらむ

歌番号:027
作 者:中納言兼輔(ちゅうなごんかねすけ)
原 文:みかの原 わきて流るる 泉川 いつ見きとてか 恋しかるらむ
読み方:みかのはら わきてながるる いづみがは いつみきとてか こひしかるらむ
決まり字:3字
<品詞分類>
みかの原(固名) わき(動・カ四・連用)て(接助)流るる(動・ラ下二・連体) 泉川(固名) いつ(代)見(動・マ上一・連用)き(助動・過去・終止)とて(格助)か(係助) 恋しかる(助(形・シク・連体)らむ(助動・推量・連体)
<現代語訳>
みかの原を湧き出てくるように流れる泉川ではないが、その人にいつ逢ったのかというので、こうも恋しいのだろう
<語句語法>
みかの原:京都府を流れる木津川の北側一帯。
泉川:京都府を流れる木津川のこと
いつみきとてか:「いつ逢ったことがあるといってか」という意味。まだ一度も逢っていないという意味になる
<表現技法>
☆掛詞:「わき(分き)」「湧き」
☆序詞:第三句まで
☆縁語:「湧き」「泉」
☆係り結び:いつみきとて『か』 こひしかる『らむ』

028:山里は 冬ぞさびしさ まさりける 人目も草も かれぬと思へば

歌番号:028
作 者:源宗于朝臣(みなもとのむねゆきあそん)
原 文:山里は 冬ぞさびしさ まさりける 人目も草も かれぬと思へば
読み方:やまざとは ふゆぞさびしさ まさりける ひとめもくさも かれぬとおもへば
決まり字:3字
<品詞分類>
山里(名)は(係助) 冬(名)ぞ(係助)さびしさ(名) まさり(動・ラ四・連用)ける(助動・詠嘆・連体) 人目(名)も(係助)草(名)も(係助) かれ(動・ラ下二・連用)ぬ(助動・完了・終止)と(格助)思へ(動・ハ四・已然)ば(接助)
<現代語訳>
山里は冬が特に寂しく感じられるものだ。人も訪ねてこなくなり、草も枯れてしまうものだと思うので。
<語句語法>
山里は:「は」は他の物と区別をする意味がある。この場合、都に対してという意味
冬ぞ:「ぞ」は強意の係助詞。ほかの季節もだがとりわけ冬は、という意味
人目も草も:「人目」は人間そのものを指す。人も草もという意味で生命あるものすべてがという意味になる。
かれぬ:「枯れる」と「離る(かる)」の掛詞
<表現技法>
☆三句切れ
☆掛詞「枯れる」「離る(かる)」
☆倒置法
☆係り結び:冬『ぞ』さびしさ まさり『ける』

029:心あてに 折らばや折らむ 初霜の 置きまどはせる 白菊の花

歌番号:029
作 者:凡河内躬恒(おおしこうちのみつね)
原 文:心あてに 折らばや折らむ 初霜の 置きまどはせる 白菊の花
読み方:こころあてに をらばやをらむ はつしもの おきまどはせる しらぎくのはな
決まり字:4字
<品詞分類>
心あて(名)に(格助) 折ら(動・ラ四・未然)ば(接助)や(接助)折ら(動・ラ四・未然)む(助動・意志・連体) 初霜(名)の(格助) 置きまどはせ(動・サ四・命令)る(助動・存続・連体) 白菊(名)の(格助)花(名)
<現代語訳>
適当に折ろうとしても折れるものだろうか?辺り一面に降りている初霜で見分けがつかず紛らわしくしている白菊の花を
<語句語法>
心あてに:あて推量に。適当に。無造作に。
折らば:仮定条件「折ろうとしたら…」の意味
折らむ:意思を表す「折ってみようか」
まどはせる:紛らわしくする。初霜の白さに白菊が紛れて見分けを付けにくくしている
<表現技法>
☆二句切れ
☆倒置法

030:有明の つれなく見えし 別れより あかつきばかり 憂きものはなし

歌番号:030
作 者:壬生忠岑(みのぶただみね)
原 文:有明の つれなく見えし 別れより あかつきばかり 憂きものはなし
読み方:ありあけの つれなくみえし わかれより あかつきばかり うきものはなし
決まり字:3字
<品詞分類>有明(名)の(格助) つれなく(形・ク・連用)見え(動・ヤ下二・連用)し(助動・過去・連体) 別れ(名)より(格助) あかつき(名)ばかり(副助) 憂き(形・ク・連体)もの(名)は(係助)なし(形・ク・終止)
<現代語訳>
あなたとつれなく別れた時の有明の月もつれなかったが、あなたと別れてからは、有明の月が残る暁の時間ほどつらいものはありません。
<語句語法>
有明:有明の月。陰暦で十六日以降に見られる、明け方になっても空に残っている月
つれなく:「つれなし」は冷淡だ、無情だ、そっけない、という意味。月と別れにかかっている
別れより:「より」は時間に対する起点を表す。
あかつき(暁):夜明け前の暗いうちを指す
憂き:「憂し」はつらいという意味。つらい運命を嘆くときによく使われる

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