百人一首:歌番号051~060現代語訳・品詞分類など

051:かくとだに えやはいぶきの さしも草 さしも知らじな 燃ゆる思ひを

歌番号:051
作 者:藤原実方朝臣(ふじわらのさねかたあそん)
原 文:かくとだに えやはいぶきの さしも草 さしも知らじな 燃ゆる思ひを
読み方:かくとだに えやはいぶきの さしもぐさ さしもしらじな もゆるおもひを
決まり字:2字
<品詞分類>
かく(副)と(格助)だに(副助) え(副)やは(係助)いぶき(固名)の(格助) さしも草(名) さ(副)し(副助)も(係助)知ら(動・ラ四・未然)じ(助動・打消推量・終止)な(終助) 燃ゆる(動・ヤ下二・連体)思ひ(名)を(終助)
<現代語訳>
このように私があなたのことを思っていることだけでもあなたに言いたいのですが、言えずにいるのです。伊吹山のさしも草ではないが、火のように燃え上がる私の思いを、あなたは知らないのでしょうね。
<語句語法>
かくとだに:「かく」は「このように」という意味。「だに」は「せめて…だけでも」という意味
えやはいぶきの:「え」は否定・反語の表現で「やは」と合わさり不可能の意味を表す。「言う」に「伊吹」の「いふ」を掛けている掛詞。
伊吹:滋賀県にある伊吹山。積雪量世界一の記録を持っている。
さしも草:「ヨモギ」のこと。お灸に使う「もぐさ」の原料
燃ゆる思ひを:「思ひ」の「ひ」に「火」をかけている
<表現技法>
☆四句切れ
☆掛詞:「言う」に「伊吹」の「いふ」を掛けている
「思ひ」の「ひ」に「火」を掛けている
☆縁語:「さしも草」「燃ゆる」「火」
☆倒置法

052:明けぬれば 暮るるものとは 知りながら なほうらめしき 朝ぼらけかな

歌番号:052
作 者:藤原道信朝臣(ふじわらのみちのぶあそん)
原 文:明けぬれば 暮るるものとは 知りながら なほうらめしき 朝ぼらけかな
読み方:あけぬれば くるるものとは しりながら なほうらめしき あさぼらけかな
決まり字:2字
<品詞分類>
明け(動・カ下二・連用)ぬれ(助動・完了・已然)ば(接助) 暮るる(動・ラ下二・連体)もの(名)と(格助)は(係助) 知り(動・ラ四・連用)ながら(接助) なほ(副)うらめしき(形・シク・連体) 朝ぼらけ(名)かな(終助)
<現代語訳>
夜が明ければ、やがてまた日が暮れてあなたに会えるのもだとわかってはいるのだが、それでもやはり夜明けは恨めしく思うのですよ
<語句語法>
明けぬれば:「夜が明けてしまうと」という意味。当時は夜明けとともに立ち去らなければならない風習だった。
知りながら:「ながら」は逆説の接続助詞。理屈ではわかっているけれども…という気持ち
あさぼらけ:夜が明けてきて、明るくなってくる頃。

053:嘆きつつ ひとり寝る夜の 明くる間は いかに久しき ものとかは知る

歌番号:053
作 者:右大将道綱母(うだいしょうみちつなのはは)
原 文:嘆きつつ ひとり寝る夜の 明くる間は いかに久しき ものとかは知る
読み方:なげきつつ ひとりぬるよの あくるまは いかにひさしき ものとかはしる
<品詞分類>
嘆き(動・カ四・連用)つつ(接助) ひとり(名)寝る(動・ナ下二・連体)夜(名)の(格助) 明くる(動・カ下二・連体)間(名)は(係助) いかに(副)久しき(形・シク・連体) もの(名)と(格助)かは(係助)知る(動・ラ四・連体)
<現代語訳>
嘆き嘆きして、一人で寝る夜の明けるまでのを過ごす私の時間がどれだけ長いものであるか、あなたはご存知でしょうか?ごぞんじないでしょうね。
<語句語法>
嘆きつつ:『つつ』は反復・継続の接続助詞。「…しながら」と訳してはいけない。ここでは、繰り返し嘆くさまを表す
明くる間は:『明』が来るまでの間、つまり、夜が明けるまでの意味
<表現技法>
☆係り結び:ものと『か』は『知る』

054:忘れじの 行く末までは かたければ 今日を限りの 命ともがな

歌番号:054
作 者:儀同三司母(ぎどうさんしのはは)
原 文:忘れじの 行く末までは かたければ 今日を限りの 命ともがな
読み方:わすれじの ゆくすゑまでは かたければ けふをかぎりの いのちともがな
決まり字:3字
<品詞分類>
忘れ(動・ラ下二・未然)じ(助動・打消意志・終止)の(格助) 行く末(名)まで(副助)は(係助) かたけれ(形・ク・已然)ば(接助) 今日(名)を(格助)限り(名)の(格助) 命(名)と(格助)もがな(終助)
<現代語訳>
いつまでも忘れないというその言葉が、遠い将来までは守られるのは難しいですが、その言葉があった今日という日に最後となる私の命であってほしい。
<語句語法>
かたければ:「難ければ」と書く。難しい、予想できないという意味
今日を限りの命:今日を最後として命尽きるという意味。
もがな:願望を表す終助詞

055:滝の音は 絶えて久しく なりぬれど 名こそ流れて なほ聞こえけれ

歌番号:055
作 者:大納言公任(だいなごんきんとう)
原 文:滝の音は 絶えて久しく なりぬれど 名こそ流れて なほ聞こえけれ
読み方:たきのおとは たえてひさしく なりぬれど なこそながれて なほきこえけれ
決まり字:2字
<品詞分類>
滝(名)の(格助)音(名)は(係助) 絶え(動・ヤ下二・連用)て(接助)久しく(形・シク・連用) なり(動・ラ四・連用)ぬれ(助動・完了・已然)ど(接助) 名(名)こそ(係助)流れ(動・ラ下二・連用)て(接助) なほ(副)聞こえ(動・ヤ下二・連用)けれ(副助・詠嘆・已然)
<現代語訳>
滝の水が枯れて水音は聞こえなくなってから長い年月が経ってしまったけれども、その名声だけは流れ伝わっており、今でもやはり聞こえてくることだ。
<語句語法>
久しくなりぬれど:「ぬれ」が完了の助動詞「ぬ」の已然形となっている。滝が枯れてしまってから長い時間が経っていることを表している。
名こそ流れて:「名」は評判や名声のこと。「こそ」は強調の係助詞。後世、この滝は「名古曾の滝」と呼ばれるようになる。
なほ:「それでもやはり」という意味
<表現技法>
☆係り結び:名『こそ』流れて なほ聞こえ『けれ(已然形)』
☆縁語:「滝」「流れ」「絶え」「音」「聞こえ」

056:あらざらむ この世のほかの 思ひ出に 今ひとたびの 逢ふこともがな

歌番号:056
作 者:和泉式部(いずみしきぶ)
原 文:あらざらむ この世のほかの 思ひ出に 今ひとたびの 逢ふこともがな
読み方:あらざらむ このよのほかの おもひでに いまひとたびの あふこともがな
決まり字:3字
<品詞分類>
あら(動・ラ変・未然)ざら(助動・打消・未然)む(助動・推量・連体) こ(代)の(格助)世(名)の(格助)ほか(名)の(格助) 思ひ出(名)に(格助) 今(副)ひとたび(名)の(格助) 逢ふ(動・ハ四・連体)こと(名)もがな(終助)
<現代語訳>
私はもうすぐ死んでしまうでしょう。あの世への思い出として、死ぬ前にもう一度あなたにお逢いしたいと思うのです。
<語句語法>
あらざらむ:「あり」は存在するという意味。ここでは「自分の存在が無くなるであろうという」ことから、「まもなく死んでしまうだろう」という意味になる。
この世のほかの:「この世」は現世。「この世のほか」は現世以外、つまり死後の世界となる。
今ひとたび:かなり切実な表現。「せめてもの願いです、もう一度…」くらいの意味になる

057:めぐりあひて 見しやそれとも わかぬ間に 雲がくれにし 夜半の月かな

歌番号:057
作 者:紫式部(むらさきしきぶ)
原 文:めぐりあひて 見しやそれとも わかぬ間に 雲がくれにし 夜半の月かな
読み方:めぐりあひて みしやそれとも わかぬまに くもがくれにし よはのつきかな
決まり字:1字
<品詞分類>
めぐりあひ(動・ハ四・連用)て(接助) 見(動・マ上一・連用)し(助動・過去・連体)や(係助)それ(代)と(格助)も(係助) わか(動・カ四・未然)ぬ(助動・打消・連体)間(名)に(格助) 雲がくれ(動・ラ下二・連用)に(助動・完了・連用)し(助動・過去・連体) 夜半(名)の(格助)月(名)かな(終助)
<現代語訳>
久しぶりにめぐりあったのに、それがあなたかどうかも見分けがつかないうちに、雲の間に隠れてしまった夜半の月のように、あなたは姿を隠してしまったのですよ。
<語句語法>
めぐりあいて:ここで会ったのは、紫式部の友である『女性』
見しやそれとも:「それ」は歌の中では「月」を指しているが、「月」に「友」を重ねて詠んでいる
雲がくれにし:月が雲に隠れる様子を、友の姿が見えなくなった(いなくなった)ことに重ねている
夜半:夜中・夜更けの意味
<表現技法>
☆縁語:「めぐる」「月」

058:有馬山 猪名の笹原 風吹けば いでそよ人を 忘れやはする

歌番号:058
作 者:大弐三位(だいにのさんみ)
原 文:有馬山 猪名の笹原 風吹けば いでそよ人を 忘れやはする
読み方:ありまやま ゐなのささはら かぜふけば いでそよひとを わすれやはする
決まり字:3字
<品詞分類>
有馬山(固名) 猪名(固名)の(格助)笹原(名) 風(名)吹け(動・カ四・已然)ば(接助) いで(副)そ(代)よ(終助)人(名)を(格助) 忘れ(動・ラ下二・連用)やは(係助)する(動・サ変・連体)
<現代語訳>
有馬山のふもとにある猪名の笹原に風が吹くと、笹の葉がそよそよと音をたてます。そう、それですよ。忘れたのはあなたのほう、私がどうしてあなたのことを忘れるでしょうか?
<語句語法>
有馬山:兵庫県神戸市北部あたりの地名。
猪名:有馬山のふもとを流れる猪名川。「有馬山」と「猪名」は一緒に読み込まれることが多かった
いで:勧誘・決意などを表す副詞。「そう!」「さぁ!」などの意味になる
そよ:笹原の笹が「そよいで立てる音」と「それ(指示代名詞)」を掛けている
人を忘れやはする:「人」は相手の男性。この歌はそもそも男性側が「あなたが心変わりしたのではないかと不安だ」と言ってきたことに対する、反発の気持ちを表したものである。
<表現技法>
☆掛詞:「そよ」に『笹が(そよ)いで立てる音』と『(そ)れ』を掛けている
☆係り結び:わすれ『やは』『する』

059:やすらはで 寝なましものを さ夜更けて かたぶくまでの 月を見しかな

歌番号:059
作 者:赤染衛門(あかぞめえもん)
原 文:やすらはで 寝なましものを さ夜更けて かたぶくまでの 月を見しかな
読み方:やすらはで ねなましものを さよふけて かたぶくまでの つきをみしかな
決まり字:2字
<品詞分類>
やすらは(動・ハ四・未然)で(接助) 寝(動・ナ下二・連用)な(助動・完了・未然)まし(助動・反実仮想・連体)ものを(接助) さ夜(名)(接頭)更け(動・カ下二・連用)て(接助) かたぶく(動・カ四・連体)まで(副助)の(格助) 月(名)を(格助)見(動・マ上一・連用)し(助動・過去・連体)かな(終助)
<現代語訳>
あなたが来ないと初めから知っていたら、ためらうことなく寝てしまっていたことでしょう。あなたが来ると信じて待っているうちに夜がふけて、西に傾くまでの月を眺めてしまいました。
<語句語法>
やすらはで:「やすらふ」で「ためらわない」という意味。これに打消の接続助詞「で」が付いている
寝なましものを:「まし」は反実仮想の助動詞。「ものを」は逆説。ここでは、男は行くと約束していたのに来なかった。「来ないとわかっていたら寝ていたのに」となる
かたぶくまでの月:月が傾くこと。時間の経過より月が沈む、つまり夜明けが近づいたことを示す

060:大江山 いく野の道の 遠ければ まだふみもみず 天の橋立

歌番号:060
作 者:小式部内侍(こしきぶのないし)
原 文:大江山 いく野の道の 遠ければ まだふみもみず 天の橋立
読み方:おほえやま いくののみちの とほければ まだふみもみず あまのはしだて
決まり字:3字
<品詞分類>
大江山(固名) いく野(固名)の(格助)道(名)の(格助) 遠けれ(形・ク・已然)ば(接助) まだ(副)ふみ(動・マ四・連用)も(係助)み(動・マ上一・未然)ず(助動・打消・終止) 天の橋立(固名)
<背景>
和泉式部の娘である作者が、歌合にでることになり、「和泉式部に代筆してもらわなくてもいいのか?お願いした?お手紙は帰ってきた?」とからかわれたことがあった。作者は、『天の橋立は遠いし行ったことがない(踏み入る)し、母からの手紙(文)もみていませんよ』とからかった者の前で即興で詠んで、自分の才能を証して見せた。なお、からかってきたものは『藤原定頼』(歌番号64番の作者)である。
<現代語訳>
大江山を越え、生野を通って行く遠い道のりなので、まだ天橋立の地を踏んだことはありません。あなたからの手紙もまだみていません。
<語句語法>
大江山:京都府京都市西部にある山の名前
いく野の道:「生野」と「行く」を掛けている。「生野」は京都府福知山市の地名。
まだふみもみず:「ふみ」は「踏み」と「文(ふみ:てがみ)」を掛けている。また、「踏み」は「橋」の縁語である
天の橋立:京都府宮津市にある日本三景の一つ。作者の母である「和泉式部」が当時住んでいた。
<表現技法>
☆四句切れ
☆掛詞:「いく野」に「生野」と「行く」を掛けている
☆掛詞:「ふみ」に「踏み」と「文」をかけている
☆縁語:「橋」と「踏み」
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